いい大人のための食育会議

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Vol.6

いい大人が身につけたい食習慣

第6回目を迎えた「いい大人のための食育会議」。今回はこれまでの食育会議を振り返りながら、「いい大人が身につけたい食習慣」について改めて考えます。私たちにとって、食べることはどんな意義があるのでしょうか。問いかけの先に見えてきたものは、「幸せ」「楽しさ」「愛」という、人生にとっても重要な要素でした。

「食べること」は
毎日訪れる幸せな時間

村上農園(以下、村農):これまでに「ユニバーサルな食事」「低カロリーとバランスカーボ」「減塩」「腸内環境改善」「抗酸化力」とさまざまなテーマについて考えてきました。そのたびに、こうしようと考えているのですが……正直なところ、なかなかそれまでの食習慣を変えるのは難しいものですね。

浜田陽子先生(以下、浜田):そうですよね。でも個人的には、最近十二指腸潰瘍を患って、自分の身体と向き合う中で、進化できたなと思うんです。食べられない時期があったので、改めて「普通に食べて消化できること」って、なんて素晴らしいことなんだろうと思いました。みんな当たり前のようにできていることだけど、ふいにできなくなることもあるかもしれない。私の場合、ストレスが原因だったけれど、普段食生活に気をつけていたからか、お医者さんにも「回復が早いね!」と言われたんです。毎日の積み重ねや日々の食事って大切なことだなと実感したんです。

渡邉美和子先生(以下、渡邉):人生なんて食なくしてはありえないわけですから。そして何より、楽しいんですよね。

浜田:そう。生きていくうえでは結婚したり、子どもが生まれたり、さまざまなイベントがあるけど、食べるというこれほど毎日定期的にやってくる幸せって、ほかにないなと思って。

渡邉:特に日本人は正月のおせちから始まって大晦日の年越しそばまで、日々の暮らしと食が密接に関わっていますよね。端午の節句で柏餅を作って子どもの成長を祝ったり、冬至にかぼちゃを食べたり……。「鍋を囲む」というのも、人と人との絆が感じられますよね。五感で楽しむってよく言いますけど、香りや見た目、味わいだけじゃなく、食卓を囲んで「おいしいね」って言いながら食べると、さらに喜びが増すというか、身体にもいいような気がします。

無理せず身体と心の栄養を
バランスよく摂ろう

浜田:仕事や子育てでいちばん忙しかったときは、たまに一人で温泉宿に行ったり、懐石料理を食べたりするのが至上の楽しみだったんだけど、今はやっぱり、誰かと食べるって大事だなって思うんです。家族はもちろん、友達や会社のスタッフと一緒においしいものを食べるのって、幸せだなって。

渡邉:生活習慣改善といっても、たとえば、「食べ過ぎてはいけない」「何を食べてはいけない」といった禁止指導ではなく、「食ってこんなに楽しいんだ」と実感してもらえるような方法がいいですよね。「なかなか食習慣を変えられない」と後ろ向きになりすぎないで、お酒やお菓子などの嗜好品を摂りたくなったら、時間帯や種類に少し気を配って楽しめばいいじゃないですか。

浜田:食べることって楽しいからこそ、我慢するときのストレスがとても強いんですよね。「ストレスを制するものはダイエットを制す」と自分で言ってきましたけど、病気を経験してまさにそうだなって。今までダイエットモニターの方に厳しくアドバイスしてきたことを後悔するくらい、そのストレスの強さを肌身で感じました。私の場合、やはり食のストレスは食で癒してあげるのが一番だなと思ったんです。お酒の代わりに紅茶や番茶などいろいろなお茶を試したり、緑黄色野菜でポタージュを作ったりして、温かいものをいただくとホッとしたんですよね。「これが食べられない」「ガマンするのがつらい」って、ネガティブな気持ちで頭がいっぱいになるよりは、どんな状況も楽しめるといいなと思います。食べることに限らず、ウォーキングしたり、花を生けたり、家族との時間を増やしたり……食べることってあくまでライフスタイルの一部だから、もっと広くいろんなことを選びとっていけばいいのではないでしょうか。

村農:こうしなきゃいけないと考えるより、もっと広い視点で捉えるとラクになるんですね。

浜田:バケットにクリームチーズをたっぷり塗って食べるとか……やっぱり、おいしいですもんね(笑)。身体にいいことしかしていない自分だと窮屈になっちゃう。人間は完璧ではないし、たまにはちょっとはみ出すくらいのほうが人生楽しいんですよ。

渡邉:もしどうしてもジャンクフードを食べたいのなら、それをしっかり消化できる力と免疫力や抗酸化力などを、身体のベースに備えられるような食生活を送りましょう。身体と心の栄養をバランスよく取っていて、そのバランスを自分で知っている人。それが大人だと思います。

浜田:ジタバタせずにかっこよくありたいですよね。自分ができることをできる範囲内でやって自分にとっての幸せを見つけられるのがいいんじゃないでしょうか。

おいしくて楽しい食事は、
身体にもいい

村農:これまでの会議を通じて、健康意識が高まっただけでなく、実践してみようという気持ちが強くなりました。浜田先生に考えていただいたレシピを早速作ってみようという気がしてきましたし、渡邉先生のおっしゃる「ユニバーサルな食事」「五感を楽しむ食事」を意識すると、無理のない範囲で普段の食事を大切にしようと思えるようになったんです。

家族や友人も健康への関心は高いのですが、情報源はテレビや雑誌などの一過性の話題ばかりで。けれどもこの会議を通じて、先生に伺ったことをみんなと共有することで、エビデンスに基づいた情報に更新できたような気がします。これからも「おいしいね」だけじゃなくて、周りの人とともに正しい食の知識や情報を選びとりながら、「ユニバーサルな食習慣」を実践していきたいと思います。

浜田:これだけ食に関する情報が氾濫していると、正しいものを選びとるのは本当に難しいですよね。けれどもやはり正しく実践できる食の知恵を持っているというのが、いい大人の流儀だと思うんです。何をどう選んでいくかは、その人自身を投影するようなものですよね。究極には、食は自他への”愛”だと思うんです。だからこそ、何を食べたいか、何を食べさせてあげたいかをシンプルに考えて毎日の食事を楽しいものにしてほしいなと思います。

渡邉:そうですね。食の知識に迷ったら、「常識に照らして考える」「自然の摂理を考える」でいいと思います。いくら身体にいいからといって、一つの食べ物ばかりをたくさん摂ったら、常識的にバランスが悪いに違いない。大地の恵みを旬で、自然に近い形でいただくのは身体にいいだろう……といった具合です。そして、自分の感覚を信じて「五感を楽しむ」。つまり「おいしそう!」「おいしい!」これこそが食の基本です。毎日の食を大切に思うところから始めて、楽しい、おいしいと思える食事を意識することで、自然に「身体にいいこと」が身についていくと思いますよ。

Profile

渡邉 美和子

内科医師。東京ミッドタウンメディカルセンター特別診察室長。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、一般社団法人メディカルファーム代表理事として医学的知識を生活に浸透させるための医療事業に関わる。日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修など、独自の食指導に力を入れている。

浜田 陽子

料理研究家。栄養士。株式会社Studio coody代表取締役。生活習慣病、食育、ダイエット、乳幼児栄養、妊産婦栄養などを専門分野とする。TV番組への出演やフードコーディネート、雑誌・書籍等への執筆、キッチンツールの企画開発、教育・行政機関とのタイアップなど、携わる業務は多種多様。フードビジネスとメディアと消費者を繋ぐ、新たな業態を展開する。

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