いい大人のための食育会議

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Vol.1

誰にとってもプラスになる
「ユニバーサルな食事」とは?

「いい大人のための食育会議」第1回目は、現代人が陥りがちな「NGパターン」を一刀両断。生活習慣病やダイエットなど、身近な話題で大いに盛り上がりました。会議を通じて「いい大人」が取るべき行動と、誰にとってもプラスになる「ユニバーサルな食事」を提案します。

その健康法、本当に正しいもの?

村上農園(以下、村農):「〇〇で健康になる」「〇〇を食べすぎるとがんになる」など、世の中にはさまざまな情報がありますが、信じるに値するものはどのくらいあるのでしょうか。

渡邉美和子先生(以下、渡邉):たとえば「乳がんには肉や大豆が良くない」と心配して、一切食べられなくなる方がおられますが、現時点で研究の結論は出ていません。肉は大量摂取すれば関係する可能性がありますが、大切な栄養源でもあります。また大豆に至っては、みそ汁をたくさん摂取してきた日本人の発症率が低いというデータもあります。

私は内科医ですから、基本的に投薬で治療していきますが、食事療法によって病気を「予防」することは可能だと考えています。けれどもすでに病気にかかっている方には、「食事だけで治すことはできません」と敢えて申し上げています。

がん治療で言えば、手術、抗がん剤など一般的な治療法に対して恐怖感を覚え、食事療法のみで治そうとされる患者さんもいらっしゃいますが、それは非常に危険です。やはり西洋医学は科学的根拠があるので、それに基づいた治療計画を進め、最少量の薬剤で最大の効果を効率的に得る。そしてどのステージにおいても治療効果を高めるのは、基本となるバランスの良い食事なのです。

浜田陽子先生(以下、浜田):やはりこれだけ食の情報が氾濫していると、ナンセンスなものもあると感じています。仕事柄、テレビの番組制作にも関わっていますが、「ドクターが選ぶスーパー食材!」みたいな、わかりやすい内容が好まれるんですよね。

渡邉:でも医学部で栄養学の授業はないし、食に詳しい医師は珍しい。病院には管理栄養士さんもいて、栄養指導はそちらに任せて……という場合がほとんどです。

浜田:よくテレビで、「朝からよく肉を食べます」っておっしゃる元気なご長寿の方が紹介されていますけど、「長寿の秘訣はお肉」というわけではなく、もともとの体質だと思うんです。一般的な栄養学の常識とはかけ離れた食生活をしていても、健康でいられる体質だからこそ、長生きされている、ということ。やはり、「脂身の多い肉は控えましょう」というのが正論です(笑)。

「不健康」から目を反らす人びと

村農:診療、あるいは栄養指導をされているなかで、課題を感じているのはどういった点ですか。

渡邉:がんは生活習慣病とも言われ、食の欧米化が大腸がんや乳がんなどの一因とされています。その中でご自身の食生活を悔やんで、意気消沈している患者さんもいらっしゃいます。生活習慣が大切なのは確かですが、一方でがんは予防しきれない、とも思います。今や2人に1人はがんにかかるのですから、「いつかはなるもの」と思って健診を受け、がんが見つかった時点で割り切って速やかに治療する、という考えが良いと思います。むしろ、いわゆる脳梗塞や心筋梗塞の予防など、自分の力で予防できる血管の病気をもっと意識するべきです。

ところが、人間ドックや健康診断で細かくチェックしているにもかかわらず、多くの方が「コレステロールが高い」「血圧が高い」と言われたことに対して、あまり自覚がないのです。

浜田:確かに! 栄養指導するなかでよく言われるのが、「僕は高血圧と高脂血症と高体重なこと以外は全部正常です!」って。「いや、それは十分異常ですよ」と言いたいです(笑)。ポジティブすぎて、イヤなことから目を反らしている人が、生活習慣病になって「今日から塩分4g以下」と厳しい食事制限になってしまうのは、本当にもったいないことです。

渡邉:そこで私が提唱したいのは「ユニバーサルな食事」なんです。がんだからこの食事、生活習慣病予防にはこの食事……と分けるのではなく、誰にとっても「いい食事」で、そのベースとなる食習慣を提案できたら良いなと思っています。

浜田:そうですね。やはり食事は「予防」の手立てだと思っています。食習慣を早い段階から整えることで、健康を保つことができるんです。

「ラクなダイエット」なんて甘い考え!?

村農:健康法もそうですが、ダイエット法にも低糖質食やプチ断食、特定の食材に着目したダイエットなどさまざまなものがあります。(ダイエット法のリスト資料を見ながら)「○kgやせた」とか、「○○するだけ」と聞くと、つい試してみたくなるものですが……。

浜田:「〇〇さえすれば、いくら食べても大丈夫」なんてよくありますけど、そういう食習慣を自分の身体に許すと、胃が大きくなってしまいます。一時は体重が下がっても、すぐにリバウンドしてしまうんです。残念ながら「ラクなダイエット」はないと言わざるを得ないでしょう。

渡邉:極端なダイエットに走って、必要な栄養素を摂らずに体調を崩してしまうのでは、本末転倒ですよね。

浜田:この資料のなかですと、正しいやり方ならプチ断食は賛成できますけどね。ただ、ダイエットというよりは「身体のクリーニング」と考えてもらえたら。ダイエット目的で断食すると、終わった後、一気に食べてしまって逆効果になってしまうこともあります。

村農:効果的なダイエット方法としてはどういったものがあるのでしょうか。

浜田:献立は基本的に主食・主菜・副菜の3つで構成されています。私の中では簡単な公式があって、主食は糖質が主成分なので、量は控えめに。そしてメインにあたる主菜では良質なタンパク質を摂ることを意識します。肉、魚が主役になるのは一般的ですが、私は週に2回くらい大豆製品をメインにして、動物性タンパク質を摂らない日を設けるんです。それと、私がいちばん重要視しているのは副菜。目安は主菜の2〜3倍の量で、5大栄養素のうちのビタミン、ミネラルに加えて、食物繊維、そして抗酸化作用が期待できるファイトケミカルをしっかり摂れるような献立が理想的です。

そうなるとやはり副菜は野菜が多くなりますが、工夫すると、主菜に負けないくらいおいしくて楽しいものになるんです。私は産婦人科の院内食を考案していたのですが、今どきのお母さんは女性として早くスタイルを戻したいし、質のいい母乳も出してあげたいという思いがあるので、その両方を叶える「スーパーバランス食」を提供しました。基本的な考え方としてはカロリーを抑え、ビタミン、ミネラル、食物繊維をしっかり摂れるような献立であるということ。一見量は少なく見えるけど、食べてみたら満腹になるので、みなさんに好評でした。食育会議でも、そういうバランスの取れたレシピをご紹介できたらと考えています。

美味しく楽しく「いい食事」を摂る

村農:毎日の献立を考えていると、主食・主菜・副菜とそれぞれ作るのが面倒に思えることもあって……丼ものやパスタなど、一品で満足できるような献立がありがたい時もあります。

浜田:もちろん、たまにはパスタでもいいんですよ。みなさん、お好きでしょ?(笑)ただ、量はきちんと管理しておいたほうがいいです。外食だとガッツリ100g出てくることもあるけど、正直ちょっと炭水化物が多すぎるかな……成人女性なら70g程度が限度かも。

渡邉:丼ものでもたっぷり野菜を使うのならいいですけど、ずっと食べていると単一の味で、飽きませんか? それなら、同じ材料でもう一品副菜を作れば、いろんな味が楽しめるし、見栄えも豊かになると思うんです。やはり私たちの身体の細胞は、食事から栄養を摂って、日々生まれ変わって動いてるわけだから、何を食べるかは非常に重要なんです。食事って、目で見て、匂いをかいで、ジュージュー焼ける音や、パリっ、サクっとした食感……そういったものが脳を刺激して、実際に「おいしい!」と感動できますよね。五感をフルに働かせられるような食事が大切だと思うんです。

浜田:「食」って、衣・食・住という生活活動のなかでもっともポジティブな活動ですよね。365日、これだけ頻度が高いにもかかわらず、「今日のお昼は〇〇食べたいな」と思うわけじゃないですか。だからなるべくハッピーな体験であってほしい。目先の数値を追うばかりではなく、「その人が幸せに生きていける身体をキープする」ためにあるのが食事であって、それには少しの我慢が必要な時もあると思います。

村農:その「我慢」をなかなか持続させるのが難しいんですよね…。

浜田:確かに(笑)。でも続けないと意味がないんです。私が提案するのは、「今できることから始めて、あまり高みを目指さないこと」。私はほぼ毎日お酒を飲んでるんですけど、もし減らすなら、「週の半分は飲まない」じゃなくて、「月に2、3回休肝日を設ける」かな(笑)。それこそ「いい大人」なんだから、できないことに挑んでは失敗して、落ち込んで……みたいな負の連鎖を繰り返すんじゃなくて、「できないことはできない」と割り切っちゃえばいいんです。マイナスのことばかり考えてると、心も窮屈になりますよね。

渡邉:楽しいほうを選べばいいんですよ。いい食事を心がけて、「美味しい」「楽しい」と感じたものだけ選んでいくと、「あぁ、ちょっとこれを変えただけで、こんなに健康になるんだ」と自然に続けられるようになっていくはず。食に限らなくてもいいんです。ちょっと運動してみたら、アドレナリンが出てさわやかな気持ちになって、世の中が違って見えるかもしれない。自分が「いい」と思うことをやると、「いいことをやっている自分」が好きになるんです。

村農:ちょっと気が楽になりました(笑)。次回からさらに詳しいお話をお聞かせください!

Profile

渡邉 美和子

内科医師。東京ミッドタウンメディカルセンター特別診察室長。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、一般社団法人メディカルファーム代表理事として医学的知識を生活に浸透させるための医療事業に関わる。日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修など、独自の食指導に力を入れている。

浜田 陽子

料理研究家。栄養士。株式会社Studio coody代表取締役。生活習慣病、食育、ダイエット、乳幼児栄養、妊産婦栄養などを専門分野とする。TV番組への出演やフードコーディネート、雑誌・書籍等への執筆、キッチンツールの企画開発、教育・行政機関とのタイアップなど、携わる業務は多種多様。フードビジネスとメディアと消費者を繋ぐ、新たな業態を展開する。

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