有用成分「スルフォラファン」を高濃度に含むブロッコリースプラウトの摂食によって、心臓病や脳卒中の主要な原因とされる動脈硬化の進行を予防できる可能性が、動脈硬化リスクの高い人を対象とした研究で確認されました。
本研究結果は、東京理科大学薬学部の谷中昭典教授によるもので、2011年7月16日に日本動脈硬化学会にて発表されました。
【背景と目的】
動脈硬化とは血管の内側が肥厚し硬くなった状態を指し、血液中で過剰になった LDLコレステロールが活性酸素によって酸化され、血管の内壁に付着して炎症を起こすことがきっかけで生じると考えられています。LDL (悪玉)コレステロールが増加し、血液中の脂質バランスに異常を持った動脈硬化リスクの高い人は現在日本 に約 2,200 万人います(平成12年厚生労働省循環器疾患基礎調査)。また、動脈硬化が原因となって起こる心臓病や脳卒中は日本人の死因の約3割を占めます。
ブロッコリースプラウトに含まれる有用成分のスルフォラファンには、活性酸素の除去や炎症を抑制する作用があることがこれまでに報告されています。それらの作用はLDLコレステロールの酸化を防ぎ、血管内壁の炎症を緩和することで、動脈硬化の進行を抑制すると期待されます。
そこで本研究では、コレステロール値に異常を持つ50人に、ブロッコリースプラウトの中でも特にスルフォラファンを高濃度に含むブロッコリースーパースプラウトを8週間食べ続けてもらい、その効果を検証しました。
【方法】
LDLコレステロール値が120以上でL/H 比が2.0以上の男女50人を対象にし、半数にはブロッコリースーパースプラウトを、もう半数には対照としてスルフォラファンを全く含まないアルファルファスプラウトを8週間毎日50gずつ食べてもらい、血液中の成分分析を行いました。
【結果】
これらの結果によってブロッコリースーパースプラウトの長期摂食が動脈硬化を予防する可能性が示唆されました。
■谷中教授コメント
動脈硬化症は、進行すると心筋梗塞や脳梗塞、脳出血など、直接死因となりうる病の原因となるため、その予防が重要視されています。予防のためには現在、食事制限や軽度の運動と合わせて、コレステロール降下薬が投与されていますが、この降下薬は長期投与によって筋肉が融解するという副作用が比較的高い頻度で現れることから、薬剤に頼らない新しい予防法が求められています。
ブロッコリースーパースプラウトは、人の健康に寄与するスルフォラファンという成分を豊富に含み、がん予防をはじめとした様々な疾病予防効果が報告されている野菜ですが、動脈硬化予防に関する報告はこれまでに例がなく、今回の報告は新しい発見と言えます。この度の研究で、食品による動脈硬化予防の新しい可能性が示唆されました。
■用語解説
ブロッコリースプラウト
1997 年に米国ジョンズ・ホプキンス医科大学教授のポール・タラレー博士が、がん予防研究の過程で開発したブロッコリーの発芽3日目のスプラウト。有用成分スルフォラファンを一般的なブロッコリーの20倍以上と高濃度に含むのが特長。日本では村上農園が同大学とライセンス契約を結び、生産・販売を行っています。
スルフォラファン
ブロッコリーに微量に含まれる有用成分。体の解毒酵素や抗酸化酵素の活性を高め、がんや様々な疾患の予防効果が期待されています。特許技術によりスルフォラファンを高濃度に含むスプラウトをブロッコリースーパースプラウトと呼びます。
T-BARS
動脈硬化進行の要因の1つである脂質の酸化レベルを示します。T-BARSが高いほど動脈硬化進行のリスクが高くなります。
hsCRP
炎症時に増加する特定のタンパク質(CRP)の量を示します。CRP が高いほど動脈硬化が進行している可能性が高くなります。動脈硬化や狭心症などの病気の診断・管理に用いられます。
L/H 比
血液中のHDL(善玉)コレステロールに対するLDL(悪玉)コレステロールの比率。L/H比が高いほど動脈硬化が進行するリスクが高くなります。
■研究者プロフィール
谷中昭典(やなか あきのり)
東京理科大学 薬学部薬学科教授 医学博士
<略歴>
1985年 筑波大学大学院医学研究科 修了
1995年 筑波大学臨床医学系消化器内科 講師
2007年 東京理科大学薬学部 臨床薬理学 教授
<専門領域>
消化器疾患の病態生理、消化器内視鏡
<研究テーマ>
Helicobacter pyloriによる胃疾患発症機序の研究
食品(ブロッコリースプラウト)による消化器癌予防効果の研究
※村上農園では、2006年から東京理科大学谷中教授に研究助成を行っています。