ブロッコリースプラウト(新芽)に含まれる有用成分スルフォラファンに、脳梗塞、心筋梗塞の予防薬として使われる非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)によって引き起こされた小腸傷害を改善する効果が確認されました。本研究結果は、東京理科大学薬学部の谷中昭典教授らによるもので、2011年11月18日に日本潰瘍学会にて発表されます。
【背景と目的】
脳梗塞や心筋梗塞の原因となる血栓の形成を防ぐ薬として、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が服用されています。しかし、これは小腸粘膜に炎症を起こし、潰瘍を引き起こす副作用があることが問題視されており、その予防法は未だ確立されていません。
谷中教授らは昨年の日本潰瘍学会で、ブロッコリースプラウト(新芽)に含まれる有用成分「スルフォラファン」に小腸の炎症予防効果が期待できることを確認しています。今回は、小腸粘膜に起きた炎症に対するスルフォラファンの炎症改善効果について検証しました。
【方法】
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を投与し小腸傷害を作成した7週齢の雄マウスに、胃炎や胃潰瘍の治療薬として広く使用されるレバミピド(※1)とブロッコリースプラウト(新芽)に含まれる食品成分スルフォラファンをそれぞれ投与し、小腸傷害に及ぼす影響について調査しました。
【結果】
レバミピド、スルフォラファンを投与したマウスで、投与していないマウスに比べて小腸傷害が軽減されました(グラフ1)。また、スルフォラファンのメカニズムとして、小腸粘膜の酸化ストレス応答能を強化すること、及び小腸粘膜に傷害を及ぼす嫌気性菌(※3)の増殖を抑えること(グラフ2)が関連している可能性が示唆されました。
※1 レバミピド... 従来、胃の粘膜を保護する薬として使用されてきたが、小腸の炎症にも効果があることで最近注目されている。
※2 MPO酵素活性...免疫に関係する酵素で、炎症が起こると増加する。
※3 嫌気性菌...無酸素環境下で生育する菌。
■谷中教授コメント
ブロッコリースプラウト(新芽)に含まれる有用成分スルフォラファンには、解毒機能を向上させ、体の酸化ストレス応答能を強化する働きがあることが知られており、がん予防効果やピロリ菌殺傷効果など、多くの研究が報告されています。非ステロイド性抗炎症薬による小腸傷害に対する働きについては昨年初めて予防効果が発表され、今回新たに改善効果が明らかになりました。
脳梗塞や心筋梗塞の予防のため、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬を常用している人は、国内に1,000万人以上おり、その1?2割は小腸に傷害が生じていると考えられます。今回の研究では、小腸傷害改善効果が期待される3種類の薬と比較試験を行い、スルフォラファンが同等の効果を示すことを確認しました。毎日飲む薬の副作用を食品で改善することは、患者への負荷の少ない非常に有意義な治療法といえます。
■研究者プロフィール
谷中昭典(やなか あきのり)
東京理科大学 薬学部薬学科教授 医学博士
<略歴>
1985年 筑波大学大学院医学研究科 修了
1995年 筑波大学臨床医学系消化器内科 講師
2007年 東京理科大学薬学部 臨床薬理学 教授
<専門領域>
消化器疾患の病態生理、消化器内視鏡
<研究テーマ>
Helicobacter pyloriによる胃疾患発症機序の研究
食品(ブロッコリースプラウト)による消化器癌予防効果の研究
■用語解説
・ブロッコリースプラウト
1997年に米国ジョンズ・ホプキンス医科大学教授のポール・タラレー博士が、がん予防研究の過程で開発した野菜。有用成分スルフォラファンを高濃度に含む。日本では村上農園が同大学とライセンス契約を結び、生産・販売を行っている。
・スルフォラファン
ブロッコリースプラウトに含まれる有用成分。身体の解毒酵素や抗酸化酵素の活性を高め、がんや様々な疾患の予防効果が期待されている。
・非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称。アスピリン、インドメタシン、イブプロフェンなどがある。心筋梗塞、脳梗塞のリスクの高い人が予防のために服用するケースが多い。副作用として、小腸の炎症や潰瘍を引き起こすことが問題視されている。
・脳梗塞・心筋梗塞
血管が細くなったり、つまったりすることで、脳や心臓に酸素や栄養が送られなくなり、細胞が障害を受ける病気。脳卒中や心臓病の主要因で、どちらも死因となるため、症状が現れた人には予防のための薬が処方される。
※村上農園では、東京理科大学 谷中教授に研究助成を行っています。