渡邉美和子先生(以下、渡邉):人間は酸素なしでは生きていけませんが、皮肉なことに酸素が消費されるとき、体内には強い酸化作用を持つ「活性酸素」と呼ばれる物質が生じます。活性酸素は増えすぎると身体にさまざまな悪影響があります。細胞を酸化させ、老化や病気を引き起こすのです。この活性酸素の害から、身体を守る作用、それが「抗酸化」です。
浜田陽子先生(以下、浜田):抗酸化が、美容やアンチエイジングのイメージにとどまっているとしたら、それはとてももったいないことですね。抗酸化って、ダイレクトに健康につながるもので、しかも食事で成果をあげられる部分が大きいものですから。抗酸化に気を配ることは、2、30年後の健康に大いに影響すると思います。
村上農園(以下、村農):身体の抗酸化力を高めるにはどうすればいいのでしょうか。
渡邉:まずは、活性酸素を発生させる原因から身を守り、細胞を酸化させないことです。激しすぎる運動や強いストレス、睡眠不足といった生活習慣、タバコの煙や大気汚染、紫外線、電磁波や化学物質といった環境要因など、活性酸素につながるマイナス要因を避けるということです。
逆にプラス要因となる抗酸化力をどう得るかというと、いちばん簡単なのは、「旬の野菜を摂る」ことだと思います。旬の野菜には、ビタミンB群、C、E、ポリフェノールなど抗酸化作用が期待できる栄養素が多く含まれています。特に、色の濃い、パプリカやトマトといった緑黄色野菜を積極的に食べるといいですね。「新鮮な状態でいただく」というのもポイントです。せっかくの旬の野菜も、日が経つにつれ、栄養素が失われてしまうことが多いのです。
浜田:表面がピンと張っていたり、みずみずしかったり……「見るからにおいしそう」っていうのはいい判断基準になりますよね。無農薬やオーガニックにこだわる人もいますが、私は、とりわけそういったものを気にしすぎる必要はないと思いますよ。調理の前にしっかり洗えば問題ないですから。調理のポイントとしては、野菜を切って置いておくことはできるだけ避けてほしいですね。私もまったく作り置きしないというわけじゃなくて、煮物などは作り置きしますよ。けれど、野菜や果物を切ってそのまま置いておいてしまうのは、乾燥しておいしくなくなるし、栄養分も減るし、いいことがありません。
渡邉:私も同感です。最近、作り置きのレシピがちょっとしたブームですが、サラダの作り置きなどは少し残念に感じています。合理的な考えだけれども、野菜は切るとそこから酸化が始まってしまいますから。
浜田:野菜に含まれるビタミン、ミネラル類は調理にとても弱いんです。空気や水にさらされるとたちまち減ってしまいます。ポリフェノールやリコピンなどのファイトケミカルも同様です。ただ、そうはいっても、「ビタミンB群は熱に弱く、水に溶けてしまうから、サプリメントで摂ります」というのも、個人的にはちょっと違うんじゃないかと思うんですよね。身体には「栄養を吸収しようとする力」っていうのがあるので。サプリメントは効率良く栄養を摂取でき、妊娠中や食事が困難な方などに対しては有効に使える場合もありますが、特に問題がなく元気な方がそれに慣れてしまうと、食材から栄養を吸収する力が衰えてしまうんじゃないかと思っています。
渡邉:食材だけで栄養を摂るのが大変という気持ちもわかりますが、「レタス数個分」「トマト何十個分」「しじみ何千個分」の栄養が本当に身体に必要かというと、疑問もありますよね。
浜田:身体に貯めることのできない栄養素を過剰にサプリで摂取しても、あまり意味がありません。「レタス数個分」のサプリを飲むよりも、レタス1個分のサラダを食べて、「あー、おなかいっぱい!」って思えたほうが自然で、健康的ではないでしょうか。
村農:よく「日焼けした後にはビタミンCをたくさん摂ったほうがいい」と言われますが、栄養素の摂り方で気を付けたほうがいいポイントはありますか?
渡邉:こまめに少しずつ摂ったほうがいいですね。一度にたくさんの栄養素を摂っても、吸収されなかった分は排出されてしまいますから。
浜田:私は、みかんやキウイなど、ビタミンCの多く含まれる果物を小腹が空いた時などに少しずつ食べるようにしています。柑橘類は手軽に食べられますし、こまめにとることで栄養が身体にしっかり吸収されるので。
渡邉:貧血で鉄分系のサプリを摂っているという人もいるかと思いますが、これも過剰に摂るのは避けてほしいですね。鉄の場合、血液検査で明確に不足量がわかります。それを超えて飲んでも意味がないのです。それこそ、鉄過剰になったら問題です。鉄は「酸化しやすい物質」ですから。
浜田:自己判断でサプリを摂って、むしろ身体にダメージを与えてしまっている人は多いような気がします。栄養の専門家からすると見ていてハラハラしますよ(笑)。むやみにパックの野菜ジュースばかり飲んでいるのも同じです。
村農:野菜代わりに野菜ジュースを飲むことがありますが、あまりよくないですか?
渡邉:野菜や果物から自分で作ったものならいいですよ。でも市販のものの多くは食物繊維がろ過されてしまっているし、糖分が加わっているものもあります。
浜田:「野菜の代わり」とは思わないほうがいいですね。デザート感覚で、「プリンの代わりに野菜ジュース」ならいいですけど……。手作りのジュースやスムージーはオススメですよ。私もほぼ毎朝、ジュースで野菜を摂っています。トマト2個をミキサーにかけてジュースにしたものなどは、それこそ「抗酸化力のかたまり」ですよ。
村農:油や調味料は古くなると「酸化する」と言われますが、やはり酸化したものを摂ると身体も酸化してしまうのでしょうか。
渡邉:厳密には、医学的に「身体が酸化する」ということはありませんが、イメージとしてはそういう理解で問題ないと思います。酸化してしまった食材は避けたほうがいいですね。特に油は、容量の少ないものを購入して、酸化してしまう前に使い切るようにしたほうがいいです。
浜田:私はグレープシードオイルや米油など、なるべく混じり気のないピュアな油を使うようにしています。あとおすすめはアマニ油、エゴマ油……ごま油もいいですね。オリーブオイルはいろいろな商品がありますが、風味が豊かなものを選ぶこと。醤油や料理酒、みりんなどの調味料も小さいサイズをこまめに使い切ったほうがいいです。
村農:目安として、どのくらいで使い切ればよいのでしょうか?
浜田:理想としては1カ月くらいで使い切ったほうがいいですね。
村農:そのほかに何か、身体の抗酸化力を高めるために気を付けるべき習慣はありますか?
渡邉:「ストレスをかけない」というのも大切ですね。「ストレスを感じる」って、「身体が酸化する」ことと同義だと言えるかもしれません。無理なダイエットでストレスを感じるのは美容や健康に逆効果ですし、激しすぎる運動もストレス負荷が増します。ウォーキングや水泳など、適度な有酸素運動のほうが健康のためにはいいでしょう。それに、睡眠もしっかり取ってください。
浜田:睡眠は基本ですね。ここ最近少し体調を崩していたのですが、いちばんストレスを感じたのは睡眠不足になったこと。身体に負担がかかっているなと感じました。
渡邉:「食事、運動、睡眠」というのは皆さんわかりきっていることかもしれませんが、「健康のために気を付けるべきはこの3つ」と言っても、それはあながち言い過ぎではないと思いますよ。
村農:それではここまでのお話をもとに、抗酸化力を高めるレシピを考えていきたいと思います。
浜田:私はよくトマトジュースを作るのですが、ちょっとピリッと感を出すとおいしいんですよね。ですからスプラウトやしょうがを一緒に入れるんです。スプラウトのほどよい辛味がちょうどアクセントになっていいんですよ。
村農:おいしそうですね! ブロッコリー スプラウト以外にも抗酸化力の高い食材を入れて「抗酸化ジュース」の決定版のようなものが作れたらうれしいです。
浜田:それはもう、まかせてください。得意分野なので。
村農:それと、抗酸化力の高い食材というと野菜のイメージが強いのですが、肉料理でもそういったメニューがあるとありがたいのですが……。
渡邉:お肉は、抗酸化に対してあまりいいイメージがないかもしれませんが、決して悪いものではないですよ。お肉をが消化されてできる分解物には抗酸化力があると言われますし、ビタミンやミネラルも豊富に含まれます。たっぷりのお野菜と一緒に摂るお肉はまさにおすすめ食材です。
浜田:それなら、味の相性もいいプルーンを豚肉に合わせたレシピを考えましょう。プルーンはポリフェノールやビタミンEなどを豊富に含む、抗酸化力の高い食材なんです。
渡邉:抗酸化作用の高い油であるEPAやDHAを含む青魚もぜひ使いたいですね。
村農:魚なら、和食で何か一品できそうですね。高齢になった両親に健康な毎日を送ってもらいたいので、年配の人でも飽きのこない和食メニューがあると助かります。
浜田:わかりました。ではサバを使って和食で一品作りましょう。今回はすべてのメニューでブロッコリー スプラウトを使いますよ!
村農:ありがとうございます!
今回のレシピテーマ
身体の抗酸化力を高める秘訣は
食材選びにあります。
高い抗酸化作用が期待できる食材を組み合わせた、
「抗酸化レシピ」をご紹介します。
渡邉 美和子
内科医師。東京ミッドタウンメディカルセンター特別診察室長。臨床の場で会員制医療における健康危機管理や医療相談に携わるほか、一般社団法人メディカルファーム代表理事として医学的知識を生活に浸透させるための医療事業に関わる。日本抗加齢医学会、日本内分泌学会をはじめ医学学会でのお弁当監修など、独自の食指導に力を入れている。
浜田 陽子
料理研究家。栄養士。株式会社Studio coody代表取締役。生活習慣病、食育、ダイエット、乳幼児栄養、妊産婦栄養などを専門分野とする。TV番組への出演やフードコーディネート、雑誌・書籍等への執筆、キッチンツールの企画開発、教育・行政機関とのタイアップなど、携わる業務は多種多様。フードビジネスとメディアと消費者を繋ぐ、新たな業態を展開する。
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村上農園(以下、村農):「抗酸化」と聞くと、美容やアンチエイジングのイメージがありますが、そもそも「抗酸化」ってどのようなことをいうのでしょうか。